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あの無羅

「先生にほめられてよかったね」
女の子は言う。
わたしは、自分のきもちを知っているから恥ずかしくなる。
きっと気づいているはずなのに。
しかえしなんだろうか。

この子の髪型がおかしいといって、クラスの男子が笑ったときに、わたしもいっしょになってわらっていた。
そのことを決して許してくれないんだろう。

一番初めにそのことを言い出したアキオくんは、この子と同じマンションにすんでいる。いろいろ強がりを言っているくせにまだおねしょをしていることをずっと前に今日みたいにふたりで話しているときに教えてくれた。
「なさけないってあの子のお母さんがわたしのお母さんに言ってたよ。ずっと一生ああなんだろうって」

なさけない子に笑われてもどうってことないんだろうな。


わたしはその日の朝にお母さんとけんかして、むしゃくしゃしていた。
悪いのはわたしだったけど、それを認めるのはイヤだった。
気分が悪いといって保健室に行き、朝のことを思い出して泣いていた。
次の時間がコンピュータの時間だったことを忘れていた。
あわてて3階の教室に走っていったけど、もう廊下にはだれもいなかった。
教室に入るとき、わたしは廊下中に脱ぎっぱなしになっていたクラスの人たちの上履きを入り口の横にきちんとそろえていた。やろうと思ってやったことではなかった。
それをみていた他のクラスの先生がわたしの先生にそれを言って、わたしはみんなの前でほめられた。
「体の調子が悪いのに、とてもりっぱなこころがけです。すばらしい」
それをやったのは、イヤなわたしなのに。

この間TVでえらそうなおじさんが、「悪いのは道徳が乱れたこの社会なのだ」と言ってたけど、わたしも「悪いのはわたしじゃなくて、こんなふうにぬぎっぱなしにして平気な人たちなんだ」と言いたかったんだと思う。それにそのことをやっているわたしのことを誰かがきっと見つけてくれることも知っていた。こんなわたしのイヤな性格をこの子は知っているんだ。


引用;乙女ちゃん,佐野洋子,大和書房,1988.5.30.

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