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あの死神

毎日のように訪れてくるので、乞われるままに2年間ほどエサをやっていた猫の写真が「探し猫」として電柱に貼ってあった。そういえばこのごろみかけない。

貼り紙は雨にぬれ乾いたあとのように波をうち、雨にあたった場所のインクが流れている。留めてあった透明のテープは変色し、ほとんど用をなしていない。いままで気づかなかったが、1カ月以上貼られていたものなのか。

貼り紙に書いてあった番号に連絡して住所を聞き出す。テナントビルの3階。エレベーターを降りたすぐ前に受付のカウンターがあった。
カウンターの反対側には、2列に向かい合って机が配置され、10人ほどの人数がディスプレイに向かって事務をしていた。

カウンターに一番近い机の若い男が対応してくれた。

「いや、写真の猫はもうみつかりました。もういいんです」

あっけにとられているわたしをそのままにして、もういいでしょうと元の仕事に戻ろうとする。

「あの猫はどうなったんですか?まさか殺されたわけじゃないんでしょう?」

彼はきびすを返す。ゆっくりと大きな草刈鎌の動きをみせながらことばの刃物をもう一度自分の前で振り回す。

「いまは幸せな場所にいますよ。それこそあなたはどなたなんです?それ以上の説明は必要ないと思うんですけどね」

黙って彼をみつめていると、彼はその沈黙に対処してくれた。

「それ以上そこにおられると、住居不法侵入で警察を呼びますよ。法を犯してまで自分の主張をしようとすることは罰せられなければいけない。それを市民的不服従とか非暴力的抵抗とかいいたいのなら、そのようにすればいい。現在の大衆の支持を得るとはおもえませんけどね」

「勘違いしないでください。わたしには悪意はありません。憎悪からは何も生まれない。また、何かをほのめかして悪口を言ってるつもりもありません」

「昨日の新聞の夕刊の記事のことですか?あれは軽率な文章でしたね。遺族まで馬鹿にしている」

「わたしが言いたいことは、どう見ても<×××>なのに<×××>と言えないことです。国際的な機関があの刑の適用の一時停止や廃止を決議しているのになぜあなたたちはそれを無視するのですか。口上書なんかを発表して反対し、決議に挑戦的な姿勢を示すのですか?お隣の国があの決議の方向に従ったのは、やはり宗教の力が大きいのでしょうか。あなたの国は仏教国ではなかったのでしょうか?」

「私のことを<×××>と言ったら怒りますよ」

若者は法の番人となり、禁止命令を発する。




引用;Cities of the Plain,Cormac McCarthy,Alfred A.Knopf,1998

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