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あの翻訳

「つまり、この大量の憎悪は何なのか、ということだ」
ドートマンダーは、顔をしかめて言った。

目の前の尼さんは、両腕をあげて、見当がつかない、お手上げだというジェスチャーをした。今は会話の時間ではないようだ。

「ええと、で、つまり、このなんだ・・・この不寛容の精神というか、人の生命や財産に対して手加減なくあらゆる手をつくして躊躇なく攻撃を加えるというこいつらの心情を慮ってみるに・・・」

彼は言葉を続けた。

「それも相手が所属している組織の権威を道具のように使って相手の攻撃をする。卑怯な手だ。それだけ自分たちの自意識も攻撃され傷ついていると感じているのだろう。目には目を、ということなんだろう」

尼さんたちは、熱心に彼の口もとを見つめ、お互いにジェスチャーで意見を交換し合って笑った。彼のことを話しているのだ。

「やっかいなことに、自分たちの正義がニセモノであることは承知の上だ。未来の自分たちに同じことが起ったらどうするつもりだ、という風な啓蒙や説得も無駄でしかない。彼らはわかっていてやっている。彼らには神はいない、と思う」

全員が凍りついていた。習慣なのか。神という言葉がでると無言になる。神の声を翻訳してくれる人はこの中にいないのか。いたら彼らのヒーローになれるのに。

「冗談を言っていいか?死刑廃止論者に彼らが言った。殺生はダメだと言うが、お前は肉も食べないのか?」

シスターたちはげっそりした顔で不同意の気持ちを表してくれた。
つまらない冗談はコミュニケーションを断絶させる。



引用;『天から降ってきた泥棒』,ドナルド・E・ウエストレイク,木村仁良訳,早川書房,1997.6.30.

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