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あの転石

うん、そうだよ。もうそこにはぼくはいない。

あの時あの場所でぼくに出会って、きみはぼくのことを幽霊(spook)みたいに思ったんだろうね。たぶんきみには幽霊を見ることや教会に行くことが、まだ見たことがないほどうっとおしいことを集約しているものになっているんだろうね。

聞く耳をもたないから、しかも常時攻めの姿勢でいるから、そのエネルギーが外に向かってるときはみんなにうっとおしがられても気にしないし、内にむかったときはそのまま2液混合実験しちゃう。結局、きみの中心には何もなかったんだね。

さて、いまどんな気分だい?
自分のことは自分がやれというふうにまかされたんだよね。
どこにも行くあてがないんだ。
みごとに身元不明の人になったみたいに。
仕事も住所も不定の人みたいに。

もう自分を例外にすることができなくなっちゃったんだね。
自分を何かと交換する必要がなくなったんだ、水や空気みたいに。

きみと出合った家の二階にひとつだけある西向きの窓から大きなイギリス産の楡の木が見える。この木はこの家の仲間といってよくて、家の上におおいかぶさって、力強く冒険的な根はやさしくからみつき、太い幹になって、その先は青白い芽の房が空中に浮かぶように消えている。人間らしさの範囲内で自分を保持している彼らのメッセージは、永遠ではなくて墓のこちら側で芽吹いてくる希望について伝えているようだ。家の中から楡の木をみていると、この家と楡の木とのより真実に近い関係性が稲妻のようにきらめいた。

もうひとこと触れておこうか。きみの1日の仕上げを終えるために。
庭に出てぼくたちは、楡の木の皮にまだ白い先端を見せて、豚の歯が何本も挿してあるのを見るだろう。「誰がこれをあなたに教えたんですか?」
その時、きみは答える。
「ロンドンである冬にそのことを聞いたことがあるんです」

きみもあの人の名前を出さないでいる。まるでそこに幽霊がただよっているみたいに。


引用;
Like a Rolling Stone,Bob Dylan,1965 Warner Bros. Inc

Howards End,E.M.Forster,1910
http://www.online-literature.com/forster/howards_end/24/

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