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あの駱駝

夢を見た。
ある朝遅く、どこかの首都で眼が覚めると、栄光の頂点にもいず、大きな褐色のカブト虫にもなってはいないけれど、くっきりした輪郭が輝いている空間から押し出されるように抜け出し、汗まみれの体を薄いシーツにくるんだ緑色の幼虫は、まるまって、夢の断片を口の中でいまだ咀嚼している自分自身を発見する。

それは始め深く青い海のようにみえた。青みがかったもやのようなものがたちこめ、その上にただよう若い魂たちは、自分たちの体全体が引き込まれてしまいそうになるその恐怖感で心底ふるえあがる。しかしそのうち、生き物の姿が見あたらないため、遠近感がつかめないことに気がつく。海の匂いもない。人工的なものなのだ。試しに漬かってみれば数Cmといった極浅の海。この海の青さは映画の背景のようにCGで描かれたものなのだろう。いまでは作者が経験で得た現実の切れ端がひとかけらも含まれていないチャチな看板絵にしかみえなくなっている。

かたや海千山千の悪魔といっていいほどの男が海を見下ろす山の頂上で微笑んでいる。

この対比はあまりに苦しく、イギリス人の言う"Between devils and deep blue sea"から連想して浮かんできたであろう夢の、口の中にまだ残る苦い味は、その間で苦しんでいるものたちに回答を迫る至上のものの存在をかなたに追いやってしまうほどだ。自分の境遇に納得してしまって、何も試みないうちにパニックになって「カナヅチだから溺れる」とヒステリックに叫んでいる、いつまでも無実で幼い者たち。膝下までしかない浅瀬なのにまるで大洪水に襲われたかのように自分をみなして。試合にならない。

国際原子力機関は、イランにウラン濃縮停止を求める決議を行った。
核兵器開発疑惑解消に向けて、さらなる情報開示を同国に求めるひとたちは海のように深く青い意見をぶつける。
かたやイランの核施設攻撃を年内にも決断するという悪魔は、準備万端整って、待ち時間でするどい爪の手入れをしている。

あの物語

…人間はすでに死んでしまったので、嫉妬や憎悪というようなマイナスの深い情念は現実には存在できなくなり、もう過去の物語の中の言葉としてしか成り立たなくなってしまった。解釈不可能で残酷で不道徳な作品はそのもの自体として存在することは許されず、(自分とは関係ないものとして)とびきり注意深く異物として排斥されなければならない。現在の物語はあまりに綺麗過ぎて、聖人の寓話のようにみえてくる。誰も止められないため、お約束の結末に収斂してしまう。そして、それを求めている読者がいる。作者は彼らの代表だ。

時代が違えば聖人の寓話も、それが誰もが現実でぶつかったことのある、永遠に解決不能で割り切れない、人生についての根本的な問題であることに思い当たり、身につまされるものもでてきただろう。いまは、登場人物のキャラクターとともに読者がひまつぶしで消費できるよく考えられた死者たちのRPGでしかない。感情移入を促す箇所もあるが、それは体温を失った消毒済みの衛生的で安全なものに加工されている。予備校の現代文解釈問題のように論理的に整合性のある作品が最高のものとされ、余分で多様な解釈が可能なものは操作され忌避される。


新しい聖人の寓話はこうだ。世界で一番「大量破壊兵器」を持つ男が、その威力をバックに、個人の財産拡大のため、異質な民の生命・財産を空から(安全に無機質的に洗練された表現で)徹底的に収奪する。お供の犬・猿・キジとともに。彼は賛美され、お供をした国の教育基本法は改正され、国歌国旗を掲揚斉唱し、歴史的事実を教えることで国を愛する態度が養われ、伝統と文化が尊重される。

あの少女

ブライスランドを出発した。おしゃべりなローは黙っていた。つめたいクモのようにパニックが背中を降りていった。

沈黙を破ったのは彼女だった。

「あ、リスがひきつぶされてる、なんてことをするんだろう」
「わ、ほんとだ」
「こんどガソリンスタンドがあったらとめてちょうだい」

私たちは世間の包囲網のなかにあった。自分たちの国の処女性を守れと集団自決を促したおなじ人たちが、彼女の処女性についての抗議の集会を開こうとしていた。私たちには手の届かないところで物事が動いている。彼女の祖母でも笑うような時代錯誤的なパターナリズムを弄した意見が、哀れなハンバート・ハンバート(私だ)と少女を閉じ込めようとしていた。コンドリーザの言うとおりにすれば、海の向こうの人たちとフラットな関係になれるのだろう。

彼女に目をやった。ありがたいことに小さい子どもは微笑んでいた。
愛想よい微笑みを私に向けて彼女は言った。
「ほんとに何てことしてくれたの。警察に電話して、あなたに強姦されたと訴えなくちゃ」

あの吐夢

あのネコとネズミの話の最終回について、いろんなバリエーションが巷間でささやかれている。世界はどのように終わるのかということについて各自に思い思いの意見があって当然だ。

ほとんどがネズミが次のように回想しているエピソードだ。あのネコは偉かった。あのネコが死んだいま、ぼく(ネズミ)は生き残れるとは思えない。違ったシステムを新しいネコが要求してきた。ぼく(ネズミ)はそれに対応できない。あのころはよかった。

わたしは追いかけられ逃げ回るネズミだ。永遠の消費者だ。立ち止まれば食われてしまい、自分の存在はなくなってしまう(と思い込んでいる)。いろんな提案をすることは可能だ。それがうまくいったときは、まるで追いかけているネコの鼻をあかしたような気分になれる。しかしむなしさがある。そういう風に提案するのも(追いかけているものの)想定内のことなのかもしれないという疑惑は付きまとう。

いま勢いのある集団は、エネルギー効率的にそのやり口を長期間続けることができない。あまりに無駄が多すぎる。人的資源でそれを補うにも限界がある。人体に有害な排出物を処理しないままここまできたが、いまはそれを自分の製品から分離することさえ困難になっている。

あの王様

《ディナーは午後8時半より》

ジャックはテーブルのあいだを縫ってバーに近づいた。
からっぽの棚に何種類もの酒壜が急速に現れ次々と並んでいく。
カウンターの前のスツールに腰を下ろし注文をしてみる。

見当をつけていたところには目標がすでになくなっている。情報が漏れている。目の隅の遠いところで(高い天井のはずれやつい目の前の戸棚の上とかに)そのものが現れてこちらを凝視し消え去る。
手元のマティーニをすするたびにその箇所の命の気配が消える。
神の党ヘズボッラー。
老人や女や子供たちの悲鳴と逃げ惑う物音が部屋のあちこちから聞こえてくる。

ふいになにも聞こえなくなる。
ただホテルの外の吹雪の低いうなり声だけが静かに伝わってくる。

「あなたからお代は頂かないことになっています。マネージャーのお達しでしてね。今日は店のおごりです」

あの浜州

あなたの記憶は跳躍するたびに失われるようだ。その長いしっぽでバランスをとることに気をとられて。記憶はしっぽの中を伝わって逃げていく。くねくねとうねりながら伸びていくしっぽの延長を辿っていくと、かすかにその軌跡まで見ることができるようだ。

むき出しの暴力的手段が、機先を制した行動が、実践による検証をもたらした。言ってみれば反社会的行為なのだが、興奮してリーダーに従って動いていたあなたにはそこまで考えが及んでいない。虫歯を持っている人間が歯を抜かれるの嫌がっていただけなのだから。リーダーも、呼びかけに集まったあなたたちが、こんなにまで抵抗するとは思っていなかったのかもしれない。抗議のための行動がここまでスムースに成立したのは、世界的な規模での同じ運動への警戒感を相手が持っていたからかもしれない。

ひとまず勝利したこの運動のリーダーは、権力を持つ相手に、自分に「王冠をかぶせて」ほしいと要請するのだが、過去の同種の行動パターンから自らの権力を維持する能力のない彼が、最終的には臆面もなく、ひざまずき和解するであろうことは双方ともに了解済みであり、金額の面での妥協点の押し引きのみが互いに発するメッセージの中のことばのはしはしに表れている。

あなたは言われたとおり、100回の嘘をしゃべり、それがすでに嘘でなくなっているのに、自分でもビビってしまう。はじめは特定のただ一人の支配者になれたらいいと思っていたあなただが、自分がそれこそ何百人の人間の感情を支配していることに気づき、一瞬恐ろしくなるが、次の跳躍の後にはその記憶はひとかけらも残っていない。

あの栗鼠

海が自分の変化を繰り返して見せることはめったにない。
擬態形成体(ミモイド)はまたたく間に成長し、観察する人間が思いもかけぬものを作りだしていく。水平線まで、はてしなく続くチューブ状の通路としかいいようのないもの。内部の装飾の色と模様はほとんどユカタン半島にあったマヤ文明のマヤ文様を思わせる幻想的なものだ。人型(ひとがた)まである。剣や長い杖を持った老人のようにもみえるが、偶然にできたものなのかもしれない。鳥のような模様もある。

島の形をした古いミモイドに降り立つ。周囲からおしよせる泡立つ波のような若い粘液。まるでこちらの思念に対応しているかのような形を一瞬形作り、触れるようで触れないまま崩れていく。誘っているようにもみえる。とても魅力的だ。昔、私が名前をつけた存在が目の前に現れる。私は家に連れて帰る。

共通の文化が2人の間にある。しかし彼女は瞬間的に消える。

「どうやって?」

「君は国家に多大な迷惑をかけたのだ。しかし、もう忘れてしまえばいい」

帰国する前に、あの島に戻る。

島の中央に近いくぼみに、「抵抗せよ」と指で書かれた文字が残っている。

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